PTSDの原因とは?また、どの危険要因が将来PTSDの発症を増加させる可能性があるのか?このページでは、原因と危険要因について説明しています。

心的外傷後ストレス障害(PTSD)は、生まれつきの精神障害ではありません。PTSDを発症する可能性として、トラウマ的出来事の経験や目撃などがあげられます。トラウマ的出来事とは、いじめから性的暴行、自動車事故、ソーシャルメディア上で誰かに脅されることまで何でもあり得ます。トラウマ的出来事の経験がPTSDの原因の一つです。

幸いなことに、トラウマ的出来事を経験しただけではPTSDを発症しません。2人の人が同じ自動車事故に遭い、そのうちの1人だけがPTSDを発症することがあります。心的外傷後ストレス障害を発症したことがある人は、PTSDをより発症しやすい可能性があります。それでは、正確には何がPTSDの原因なのでしょうか。

PTSD発症の可能性につながる2つの主な要因があります。それは、環境ストレス要因と遺伝的脆弱性です。[1]。PTSDのそれぞれの原因と、トラウマ的出来事を経験した後にPTSDを発症するのを防ぐのに役立つ危険要因と保護要因について以下で説明していきます。


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PTSDの原因-環境ストレス要因

環境ストレス要因は、その人がストレスだと感じるあらゆる経験のことである可能性があります。環境ストレス要因の中には、他の環境ストレス要因よりもより大きな影響をその人に与えるものがあります。そして時には、ストレス要因はAさんに大きな影響を与え、Bさんには影響を与えないことがあります。例えば、難産はメアリーにトラウマを与える可能性がありますが、ジェーンは同様の難産でもトラウマにならないかもしれません。1つのトラウマ経験がメアリーにはPTSDを引き起こし、ジェーンには起こらない理由がいくつかあります。以下の章でそれらについて説明します。

環境ストレス要因の例としては、出産[4]、救助隊、復旧作業員、軍人などのストレスの多い環境での仕事[5]、[6]、身体的暴力、性的暴行、精神的虐待などの対人暴力[7]、[8]、事故、自然災害、命を脅かす病気や怪我、殺人、そして人間の苦しみの極限など[8]があります。

事故、性的暴行、殺人などの一部のトラウマ的出来事は急性ストレスや他のPTSDに関連する症状を引き起こし、精神的虐待などの他のトラウマ的出来事については、PTSDに関連する症状は数ヵ月から数年後に発症することもあります。後者では、虐待はそれほど明白なものではありませんが、被害者が受けた苦痛は時間の経過とともに蓄積していくのです。

多くの場合、ただ1度だけの精神的虐待のような出来事では、PTSDの基準を満たす十分なPTSD症状を引き起こすことはありませんが、事故、殺人、性的暴行のような衝撃的な出来事にはすぐに多くのPTSDに関連する症状を引き起こします。

つまり、環境ストレス要因は心的外傷後ストレス障害の発症につながっており、PTSDの原因の一つとみなすことができます。しかし、トラウマ的出来事を経験したり目撃したりするだけでは、PTSDを発症するには至りません。遺伝、危険要因、保護要因などの、PTSD発症の可能性に影響を与える他の要因があります。これらの保護要因と潜在的なPTSD原因について下記で説明していきます。


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PTSDの原因-遺伝

環境ストレス要因の次に、遺伝要因がPTSD発症の脆弱さにつながるだけでなく、潜在的にトラウマ的出来事の曝露にもつながっています[9]。一つ目の発見では、特定の遺伝子がその人をPTSDの発症から守る要因にマイナスな影響を与える可能性があることを示唆しており、それゆえPTSDの発症に対してより弱くなると考えられています。トラウマ的出来事が脳内で処理されている途中で、特定の遺伝子がマイナスな影響を及ぼすことを意味しているのかもしれません。

二つ目の発見では、特定の遺伝子がリスク評価にマイナスな影響を与えたり、危険な行動を促すことを示唆している可能性があります。その人のリスク評価スキルが低い場合や、危険な行動を好む場合も、潜在的にトラウマ的出来事により多く曝露される可能性があります。

双子に関するPTSD遺伝率の研究推定値は、トラウマ経験後の数値で24~72%、双子の女性においてはPTSDを発症する可能性が2~3倍高いと示唆されています[10]、[11]、[12]、[13]。

PTSD遺伝率の推定値24~72%という数値の幅広さは、人間の遺伝子の違いによるものだということです。これは、トラウマ的出来事を経験したり目撃した後に、24~72%の人がPTSDを発症するという意味ではありません。異なる遺伝子をもつ24~72%の人々がPTSDを発症する可能性があるということです。

どの危険要因がPTSDの原因につながるのか?

PTSDの原因を直接引き起こす危険要因はありませんが、PTSDを発症する可能性を間接的に高める危険要因がいくつかあります。

PTSDの原因を直接引き起こす危険要因はありませんが、PTSDを発症する可能性を間接的に高める危険要因がいくつかあります。

  • PTSDの原因の一つは、人生の早い時期(小児期から)に直面したトラウマ的体験です。その人が経験したトラウマ的体験の数と過酷さよって、将来の「トラウマ的」出来事がPTSDを引き起こす可能性を高めます。
  • 遺伝された精神的健康リスク(うつ病や不安症)によって、将来の「トラウマ的」出来事がPTSDを引き起こす可能性を高めるかもしれません。
  • 遺伝された人格特性(気質など)は、将来のPTSD発症の原因の一つかもしれません。
  • トラウマ的出来事をより多く経験する立場(兵士のような)の仕事を持つこともそうです。
  • 優れた支援システムの不足が、将来のトラウマ的出来事によりPTSDを引き起こす可能性を高めるかもしれません。あなたの気持ちやトラウマ的出来事の間に起こったことについて話すことは、あなたの思考がすべての情報を処理するのに役立つでしょう。特に、いじめられている人やいじめられていた人にとって、これは特に必要不可欠なことです。もしいじめられている人に対して優れた支援システムがなければ、彼らがPTSDを発症する可能性は非常に高くなります。

PTSDの原因-保護要因

PTSDの発症を防ぐことができる要因は、優れた対処スキル柔軟な適応能力[14]、高度な準備[15]、[16]、および社会的支援[16]、[17]です。同時に、最小限の対処、低レベルの準備、および不十分な社会的支援はPTSDを発症するリスクを高めます。配置前に十分に準備された軍隊は戦闘レベルと互いに関係づける恐怖レベルを認められましたが、配置前に十分に準備されなかった軍隊は、戦闘の曝露に関係なく高レベルの恐怖を認められました。

以前に(救助)経験や災害訓練を受けたことがある救助隊員や復旧作業員はPTSDを発症する可能性は低いです[5]。同時に、世界貿易センターの災害やベトナム戦争などの、災害や戦争の惨状により長くさらされている労働者は、PTSDを発症する可能性が高くなります[5][6]。これは、重大な事件への曝露が少ない警察官はPTSDを発症する頻度が低いという別の研究と一致しています。[17]。

明るい世界を仮定することはもう一つの保護要因です。つまり、「世界は良い場所である」などと仮定することは、トラウマ的出来事を目撃したり経験した後の心的外傷後ストレス障害の発症を防ぐのに役立ちます[17]。


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信仰上の道徳的信念は、PTSDの発症とその症状を防ぐのにも役に立ちます[18]。道徳的信念に対する点数が高いほど、PTSD症状の点数は低くなります。加えて、信仰上の道徳的信念は退役軍人が苦痛をより上手くコントロールすることを可能にします。トラウマ的出来事の後に自分のスピリチュアルなニーズや欲求を探求することは、PTSDの発症からその人を守るのに役に立ちます。

PTSDの原因-参考文献

  • [1] Smoller, J. W. (2016). The genetics of stress-related disorders: PTSD, depression, and anxiety disorders. Neuropsychopharmacology, 41, 297.
  • [2] True, W. R., Rice, J., Eisen, S. A., Heath, A. C., Goldberg, J., Lyons, M. J., & Nowak, J. (1993). A twin study of genetic and environmental contributions to liability for posttraumatic stress symptoms. Archives of general psychiatry, 50, 257-264.
  • [3] Stein, M. B., Jang, K. L., Taylor, S., Vernon, P. A., & Livesley, W. J. (2002). Genetic and environmental influences on trauma exposure and posttraumatic stress disorder symptoms: a twin study. American Journal of Psychiatry, 159, 1675-1681.
  • [4] Maggioni, C., Margola, D., & Filippi, F. (2006). PTSD, risk factors, and expectations among women having a baby: a two-wave longitudinal study. Journal of Psychosomatic Obstetrics & Gynecology, 27, 81-90.
  • [5] Perrin, M. A., DiGrande, L., Wheeler, K., Thorpe, L., Farfel, M., & Brackbill, R. (2007). Differences in PTSD prevalence and associated risk factors among World Trade Center disaster rescue and recovery workers. American Journal of Psychiatry, 164, 1385-1394.
  • [6] Xue, C., Ge, Y., Tang, B., Liu, Y., Kang, P., Wang, M., & Zhang, L. (2015). A meta-analysis of risk factors for combat-related PTSD among military personnel and veterans. PloS one, 10.
  • [7] Kilpatrick, D. G., Ruggiero, K. J., Acierno, R., Saunders, B. E., Resnick, H. S., & Best, C. L. (2003). Violence and risk of PTSD, major depression, substance abuse/dependence, and comorbidity: results from the National Survey of Adolescents. Journal of consulting and clinical psychology, 71, 692.
  • [8] Spinhoven, P., Penninx, B. W., van Hemert, A. M., de Rooij, M., & Elzinga, B. M. (2014). Comorbidity of PTSD in anxiety and depressive disorders: prevalence and shared risk factors. Child abuse & neglect, 38, 1320-1330.
  • [9] Amstadter, A. B., Nugent, N. R., & Koenen, K. C. (2009). Genetics of PTSD: fear conditioning as a model for future research. Psychiatric annals, 39.
  • [10] Sartor, C. E., McCutcheon, V. V., Pommer, N. E., Nelson, E. C., Grant, J. D., Duncan, A. E., … & Heath, A. C. (2011). Common genetic and environmental contributions to post-traumatic stress disorder and alcohol dependence in young women. Psychological medicine, 41, 1497-1505.
  • [11] True, W. R., Rice, J., Eisen, S. A., Heath, A. C., Goldberg, J., Lyons, M. J., & Nowak, J. (1993). A twin study of genetic and environmental contributions to liability for posttraumatic stress symptoms. Archives of general psychiatry, 50, 257-264.
  • [12] Stein, M. B., Jang, K. L., Taylor, S., Vernon, P. A., & Livesley, W. J. (2002). Genetic and environmental influences on trauma exposure and posttraumatic stress disorder symptoms: a twin study. American Journal of Psychiatry, 159, 1675-1681.
  • [13] Wolf, E. J., Mitchell, K. S., Koenen, K. C., & Miller, M. W. (2014). Combat exposure severity as a moderator of genetic and environmental liability to post-traumatic stress disorder. Psychological Medicine, 44, 1499-1509.
  • [14] Agaibi, C. E., & Wilson, J. P. (2005). Trauma, PTSD, and resilience: a review of the literature. Trauma, Violence, & Abuse, 6, 195-216.
  • [15] Renshaw, K. D. (2011). An integrated model of risk and protective factors for post-deployment PTSD symptoms in OEF/OIF era combat veterans. Journal of Affective Disorders, 128, 321-326.
  • [16] Kline, A., Ciccone, D. S., Weiner, M., Interian, A., St. Hill, L., Falca-Dodson, M., … & Losonczy, M. (2013). Gender differences in the risk and protective factors associated with PTSD: a prospective study of National Guard troops deployed to Iraq. Psychiatry: interpersonal & biological processes, 76, 256-272.
  • [17] Yuan, C., Wang, Z., Inslicht, S. S., McCaslin, S. E., Metzler, T. J., Henn-Haase, C., … & Marmar, C. R. (2011). Protective factors for posttraumatic stress disorder symptoms in a prospective study of police officers. Psychiatry research, 188, 45-50.
  • [18] Hasanović, M., & Pajević, I. (2010). Religious moral beliefs as mental health protective factor of war veterans suffering from PTSD, depressiveness, anxiety, tobacco and alcohol abuse in comorbidity. Psychiatria Danubina, 22, 203-210.